捕鯨問題にみる日本の役割

太田述正氏の見解に基づいて,今(英米で)話題の捕鯨問題について考えてみます。

先日(2006年6月18日),国際捕鯨委員会 (IWC) 総会で商業捕鯨の再開を支持する宣言が33対32の1票差で可決されました(http://www.cnn.co.jp/world/CNN200606190005.html)。この採択自体は何か実質的な効果があるものではないようです。具体的な効果を持つ「海に棲息するイルカ等の小型哺乳類をIWCでは扱わないことにする決議案」と「秘密投票制を導入する決議案」は既に否決されています(BBC NEWS | Americas | Whaling summit setback for Japan太田述正コラム#1307(2006.6.20) <捕鯨再論(続々)(その1)>)。重要な2つの決議案が(事前の予想に反して)否決されているとはいえ,IWCの方向性を変更する宣言は可決されており,(好意的に見れば)日本のロビー活動は功を奏していると言えます。

さて,ご存知のように捕鯨賛成派の筆頭は日本です。対する反対派の筆頭は英米を始めとするアングロサクソン諸国(=英国の旧植民地,あるいは憲法で英国王を元首と定めている国+そこから独立した米国)です*1

米国主導の下に捕鯨モラトリアム(商業捕鯨の禁止)が採択されてから20年が経過していますが,その間の日本の努力が実を結ぼうとしていることについて,太田述正氏は次のように記しています(太田述正コラム#1273(2006.6.3) <捕鯨再論(続)>):

 アングロサクソンの気まぐれでグローバルスタンダードになったものが、アングロサクソンが正気に戻って撤廃ないし改変される、というままある話ではなく、アングロサクソンが打ち立てたグローバルスタンダードを、日本を中心とする非アングロサクソン諸国が結束してその座から引きずり下ろす、という珍しい出来事が、今まさに起ころうとしているわけです。
 アングロサクソン、就中米国が打ち立てたグローバルスタンダードの中には、鯨の話以外にも不条理なものはいくらでもあります。
 日本は、これらの鯨以外の不条理なグローバルスタンダードの撤廃・改変に向けてもイニシアティブを発揮することが世界中から期待されているという自覚を持ち、この期待に応えるためにも一刻も早く米国から「独立」すべきなのです。

これは裏返して言えば,覇権国家アングロサクソン諸国)が独自の価値観(捕鯨は「感情的に」*2許せない)に基づいて行う不条理な政策(捕鯨禁止)に対抗できる素質を日本が持っていると認められているということであり,それ故に非覇権国家(非アングロサクソン諸国)から期待されているのです。そして,太田氏はそれが為されれば世界史的な意味がある,と別のところで指摘しています。日本は果たしてその期待に応えられるのでしょうか。

歴史を振り返ってみると,世界史的に重要な意味のあることとして,日本は既に覇権国家の独自の価値観を打ち砕いています。それは今から100年前,1905年の日露戦争の勝利に端を発します。白人に有色人種が勝利したという事実は,白人の「有色人種が白人よりも劣っている」という「それまでの事実」を反証し,植民地の独立運動*3アメリカの黒人の地位向上運動*4のリーダーに多大な影響を与えました。また,国際連盟におけるいわゆる「人種差別撤廃条項」の提案や,ナチスドイツに迫害されたユダヤ人の救出なども含め,白人の人種差別価値観の撤廃への日本の貢献は大きなものがあります。

今回の捕鯨問題のように,アングロサクソン対非アングロサクソンの価値観の衝突において日本がリーダーシップを求められるのは,現在の国力(経済力と軍事力)が強い上にそのような過去の実績があるからではないかと思います。私たち日本人が「国際社会において名誉ある地位を占め」るためにも,自らの文化と歴史を学び,正・不正というもの,変えていかなければならないもの・守らなければならないものに対してリーダーシップを発揮できる人材に私たち一人一人がならないと,ね。

*1:捕鯨反対の経緯は,米国による政治的な提案を英国が追従したことによります(JOG(097) クジラ戦争30年)。

*2:国際派時事コラム「商社マンに技あり!」 反「捕鯨」社説でハメを外した米高級紙

*3:ちなみにインドの独立はガンジーの非暴力運動では成されなかったが日本軍のインパール作戦がその種を蒔いた(そしてチャンドラボースが実らした)。

*4:キング牧師はあくまで「白人も黒人も,ユダヤ人も非ユダヤ人も,新教徒もカソリック教徒も,皆互いに手を取」ることを夢見たのであって,黄色人種とも手を取り合うことを提起したのではないという指摘は面白い。